人は見かけによらない
「あー。遠藤さん。こんにちはー」
って自転車漕ぎながら手を振りながら、みきちゃんはすれ違う僕に手を振ってくれた。
笑顔がとてもステキなみきちゃん。
夏の日射しがキラキラと、カルピスのCMのような爽やかさ。
僕も手を振ってそれに応えて、みきちゃんは相変わらずかわいーなぁー、って思う。
みきちゃんはまるで天使のようだ。髪の毛さらさらで、肌はまっしろで、笑ったときの口元は艶やかで。
ほんと、世の中って、だまし絵みたい。
誰が、あんなにかわいいみきちゃんの姿を見て、みきちゃんの本性を暴けるだろう。
僕とみきちゃんの初対面は中学のとき。みきちゃんは僕の一つ年下で、美術部で生徒会に入ってて、文化祭の準備期間の放課後で、僕とみきちゃんは出会った。そんで僕はみきちゃんに襲われかけたのだ。
もちろん僕のほうが力が強いので平気で拒めたので余裕で未然で済み大事にはなっていないのだが、衝撃だったのは、人並み以上に純粋で無知だった僕が、すんなり納得してしまったことだ。
なるほど、こういうこともあるのか、と。
美術部で生徒会に所属していてとてもかわいい後輩の女の子が、襲いかかってくることがあるのか、と。
そりゃそうか、と。
それは、人は見かけによらないということを知ると同時に、僕への、人を見かけで判断するなという叱咤のように思えた。
それから少し経って僕が卒業する直前に、みきちゃんと生徒会室で会ったことがある。
「遠藤さんはかわいいなぁー」
話をしていてそう言われた僕は少しムッとしたのかもしれない。ヘラヘラとするみきちゃんにさりげなく近付いて、みきちゃんのスカートをまくり上げた。
当然のようにみきちゃんはハーフパンツをはいていたのだけれど、さすがのみきちゃんも急にスカートをめくられるとは思わなかったようで、一瞬、かなり驚いた顔をしたが、すぐに僕を睨んだ。
「ショックやわ、遠藤さん。まさかそんなことしてくるとは」
「まあ、前のお返しみたいなもんやろ」
「いや、それは別にいいねんけど、嶋佐さんの行動すら予測できひんかった自分にショックよね」
そう言うとみきちゃんはスカートの中に手を入れる。そして僕の目の前でハーフパンツを脱ぎ、脱いだハーフパンツを綺麗に畳み、傍らの机の上にふわっと置いた。
大胆なことをしながらも視線を引く気品。こういう細かい所作のせいなんだろうな。僕がみきちゃんを憎めないのは。
美しいものには、騙されてもいいや、ってなっちゃうのかもしれない。
みきちゃんは勝ち気に笑みを浮かべて言う。
天使みたいな、だまし絵みたいな笑顔。
「遠藤さんがスカートめくってくるってわかってたら、ハーフパンツなんかはいてこんかったのに」
「ほんまかわいくないなぁ、自分」