出来ないことが出来るって最高だ(ヤカマシワ)
「……あれ?」
インターホンが鳴らない。何回押してもカチカチいうだけ。
「壊れてんのかな」しかたなくドアを叩く。「おーい。せんぱーい。いないんですかーってあれれ」ドアノブひねったらふつうに開いた。ので入る。「せんぱーい?入りますよー?って暑っ。何これ蒸し風呂みたい……って、何してんすか、先輩」
先輩はふつうに寝てた。汗だくで。私が近付いたら起きたようで、眉をしかめて私を睨む。
「あー。おー。木村か」
「あー。おー。じゃなくて。なんですかこの蒸し風呂状態の部屋は。あと、インターホン壊れてましたけど」
「あー、電気停まってん」
「はー?こんな真夏に?そんでこの温度?死にますよ」
「うん、マジで死ぬ。喉かわいた。なんか飲み物とってー」
「はい、んー。冷蔵庫開けますよーって、冷蔵庫の中くさっ。中身全部腐ってますよこれ」
「そりゃそうやろ」
「飲み物もないし。てゆーかおるだけで汗だくになるこの部屋。不快指数えぐー。つーかなんで窓すら開けてないんですか」
「俺、窓開けるの嫌いやねん。夜中に誰か入ってきそうやん。怖いやん」
「玄関の鍵開いてましたけど?」
私はとりあえずカーテンと窓を開ける。そこで部屋が明るくなって気がついたけど、部屋の中めっちゃ汚い。えー。とりあえず近くの自販機にジュース買いに行って、部屋に戻った。
「ダメですねー、この部屋。窓開けてても外よりふつうに暑い」
「痩せるぞこの部屋ー」先輩はスポーツドリンクを飲んで少し元気になっている。「電気代払わないダイエット」
「危険ですよこれ、ほんまに。もう座ってるだけで汗かいてきますもん。ほら」
「そうか。たしかにそれは危険かもな。こんな狭い部屋で、巨乳JKがどんどん汗だくになってブラ透けしていったらさすがの俺も我慢できるかどうか」
「それはほんまに危険ですね。てゆーか電気停まってんねやったらゲームできひんくないですか?」
「ほんまや。灯台もと暗しや」
「使い方違うと思いますけど」
「合ってる合ってる。ここは電気が停まってるから暗いけど、見上げれば灯台は明るいよってこと」
「は?」
「ここが暗いなら上に行けばいいやん」
「ん?佐々木くん?どうしたん?え?ゲーム?まあ、嫌いじゃないけど。まあ、こどものときは弟とかとやったりとか。最近はしてない……へー。おもしろそうやね。ん?へー。え?今?持って来たの?え?うちでするの?え?てゆーか汗くさっ。佐々木くんなんでそんなに汗だくなん?てゆーか隣のその女の子だれ!?え!?ちょ、待って、上がっていいとか言ってないし!」
て感じで先輩と私は、先輩の真上の部屋に入り込んだ。
「涼しい……」先輩はエアコンの前で気持ち良さそうに風を浴びる。
「そうですね、先輩。涼しい最高ですね。エアコンラブですね」私はバカなふりをして先輩に便乗する。
「え?めっちゃ令和やん。若い子のやることについて行かれへん私。今どきってふつうなん?強引に部屋入り込むの」
って目を丸くしてる女性はリエさん。私は初対面だ。リエさんは見た感じ、20代半ばくらいの社会人ってとこだ。小綺麗な身なりで部屋もかわいい。そんな女性の部屋に、いくら同じマンションに住んでて顔見知りだからといっても下の階の男がづかづか入ってくればそりゃあそんな顔にもなる。てゆーか警察呼ばれてもおかしくないだろけど、なんてゆーか、マジで、先輩の空気がそれをさせない。
あ、たまにいる、そういう人か。って納得せざるをえない空気。
そして流されてしまう。
今私がバカなふりをして初対面の人の家に上がり込んでいるように。
「どーゆーこと?佐々木くん?この巨乳ちゃんは誰?佐々木くんの彼女?」
「俺の高校時代の後輩です。安心してください。俺、今彼女いないんで」
「そこの心配してない。君のこと心配しようと思ったらもっともっと他にたくさんあるから」
「昔からよく言われます。なんか、ほっとけないんだよね、って。愛され上手なんですよね。末っ子キャラなんで」
「どうせこの巨乳ちゃんにも心配かけてんねやろ。後輩なんやろ?もっとしっかりせなあかんのちゃうん」
「しっかりしてますよー。てゆーかリエさんも、せっかくの休日やのに昼間っから家でだらだらって、もうちょいしっかりせないと」
「うるさ。めっちゃ無礼。人んち上がり込んどいて」
「なんか空気がピリピリしてるなー。もっと仲良くしましょうよ。ゲームしましょ、ゲーム。せっかくやねんから、みんな仲良くせないと」
先輩はそう言ってゲームをチャチャチャっとセッティングした。そんでゲームを起動した。
「おっしゃー。さて。みんなでAPEXしよー」
「.........。あ、APEXやったらネット繋がなあかんのちゃうん?password入れる?」
「あ、大丈夫です。元々俺んちでもリエさんとこのWiFi繋いでるんで」
「ふつうに犯罪やぞ。てゆーかいつの間にやねん」
「さてと。俺、まずは風呂入ってこよ。汗だくで気持ち悪いし。二人は先にゲームしとってー」
「は?」
「リエさん、お風呂借りますね」
「どこまでもやな、自分。ふつうにちょっと抵抗あるねんけど」
「俺、リエさんしか頼れる人いないんですよ」
「……。じゃあちょっと待ってて。洗面所とか片付けるし。洗濯物とか」
「あ、大丈夫です。リエさんの下着とか興味ないんで」
「……」
そう言って先輩はマジでお風呂に入りに行った。少しして、けっこうでかめの鼻歌が聞こえてきた。
私は初対面の女性と二人きり。
さすがにタイマンはきつい。失礼しまくった後だし。
「……木村さんやっけ?」とリエさんは重たそうに口を開いた。
「はい」
「あの子っていつもあんなんなん?」
「まあ、私の知る限りは」
「大変やね」
「まあ、悪意とか、害はないので」
「害はないかぁ。んー。そうやね。悪意もないかもね。なんか飲む?コーヒー?」
「あ、すいません。お言葉に甘えます」
「やっぱ木村さんはしっかりしてんのね。ふつうに」
「あ、すいません。ほんと、いろいろと」
「まあ、ええんよ。佐々木くんって、ほんま人徳あるっつーか、憎まれへんってゆーか、かわいいやん。あ、変な意味じゃなく。純粋に、羨ましいなー、って思う。社会人の私としては。あーなりたいとかでは全くないけど。あーゆう部分が自分に欠けてんねやろな、とは思う」
「あー。なんかわかります」
「木村さんは、かわいいやん。モテそうやけどな。佐々木くんに振り回されるのに付き合ってていいのん?」
「先輩と遊んでて大丈夫?とかは、よく言われますけど」
「言われるんや」
「けど、私、単純に、先輩よりやさしい人に会ったことないんですよね」
「へー。へえーー。ふーん。やっぱちゃうなぁー、佐々木くん。ふつう、そんなん人に言わされへんでなぁ。格が違うなぁ」
「先輩って、あんな風なんで。さっきの話とはちょっと違いますけど、ほっとかれへんってゆうか。ほっといたら何しでかすかわからんとかじゃなくて、ほっといたらどっか行ってしまいそうやから、ちゃんと繋がっときたいから、私が付きまとってる感じです」
「マジかー。聞いてるこっちが照れるわー」
「まあ、先輩、口では、そんな汗だくでブラ透け巨乳がおったら我慢できひん、とか言ってましたけど」
「そういや自分らなんでそんな汗だくなん?」
「先輩の家電気停まってるんですよ」
「は!?この時期に!?」
「やから、こういう流れになって。ご迷惑おかけしてます」
「あーもー。なんなんやろほんまに佐々木くんはもー。木村さん、明日なんか用事あんの?」
「いえ。日曜ですし」
「今日泊まっていきーや」
「え?それはさすがに」
「今こうしてる時点ですでにさすがにの範疇やで。佐々木くん家電気停まってんねやろー。さすがに、私と佐々木くんの二人きりはあかんやろー。佐々木くんがいくら無害でも、私のほうが有害になっちゃう恐れありやん。私、佐々木くんほどピュアちゃうもん」
「んー、まあ、はい。親に電話入れてみます」
「木村さん、ちょっとおっぱい触っていい?」
「え?ダメですけど。親に電話入れますよ?」
「そう。嫌やったらええねんけど。パジャマ、ジェラピケ着る?」
「え。やったー。何色ですか?」