嶋佐と前撮りのうそにっき

一軍女子をやっつけろ!

東京の人は冷たい


「ふぉ。おお……ふぉおぉ」

って声が漏れるくらいのイケメンを見た。

興奮のあまり初潮を迎えるかと思った。

「え!ちょっと!あのイケメン誰なん!?」ってマユに訊く。「あー。あの子?誰やっけ。山本くんやっけ。さっちゃんが休んでる間に転入してきてん」「え?なんでそんなテンションなん!?あんなイケメンが転校してきたのに!もっとテンションあげへんの?」「あー、たしかにイケメンかもやけど、私、体育できるほうがタイプやから。あの子、ちょっと暗い感じやし、あんまり」

たしかに山本くんは小学生とは思えないほどの落ち着きっぷりだった。転校してきて間もないとは思えないほど落ち着き払い、きちんと着席して本を読んでいた。たしかに今までクラスにはいなかったタイプ。でも顔がちょーキレイ。暗い雰囲気なんかではなく、王子様のように見えた。

「私、山本くんと付き合う」

「え?そう?うん、がんばり」

それから私は山本くんを観察しまくった。たしかに、クラスのみんなは山本くんにあまり興味無さげだし、山本くんもクラスのみんなに興味なさそう。ほんとに小学生かよ、と思う。

でもステキ。そういう雰囲気も大好き。もう愛してる。私は山本くんと接触してみる。

「おはよー山本くーん。私、さっちゃんってゆーねんけどー。昨日までちょっと病気してて3日ぐらい休んでたんよー。山本くん、転校してきてんよね?どっから転校してきたの?」

山本くんは本から顔を上げて答える。

「……東京」

「うわー、東京?すごいなー。東京ってめっちゃ都会なんやろー?大阪とどっちが人多いー?」

「わかんないけど、そんなに変わらないんじゃない?」

「そうなーん?テレビとかで見てたら人うじゃうじゃやん。東京こわーって思うけどなー。尼崎にはもう慣れた?」

「慣れないよ。馴れ合うつもりもないよ」

「え?」

「ごめん、僕、方言って嫌いなんだよね。下品だし、イマイチ何言ってるかわかんないし」

「は?」

「そういう関西のノリもうっとうしいし。明るくフレンドリーに感がうざい。距離感詰めてくる感じダルい」

「へー。山本くんってイケメンだよねー」

「東京だと僕くらいが普通だよ」

「えー?じゃあ私なんかが東京行ったら大変なことなっちゃうやーん」

「ふっ。そうだろうね」

「死ね!!」

私は山本くんのきれいな顔面に拳を入れた。ふっ。ってなんだ。はじめての笑顔どこで見せてくれとんねん。

それが山本くんとの初邂逅。

それから殴り合いになって2人揃って先生に叱られて、それでも私は山本くんのことを許せなかった。あのクソ生意気なガキをどうしてくれようかと毎日考えた。どうしたら山本くんは私に惚れるのか。今のところ、全く脈がないどころか真逆の方向にある。

わからないことは先生に聞くのがいちばんだ。

放課後、職員室に相談に行った。

「せんせー。山本くんを私のこと好きにさせたいんですけど、どうしたらいいですかー?」

「小谷ー。おまえにはまだ早いー。諦めろー」

「せんせー真剣に聞いてくださいよぉー。思春期の生徒が恋愛に悩んでるんですよぉー」

「ガキが恋愛とかゆう言葉使うなー。おまえらの言う好きやら嫌いやらは、JKの言うエモいやら草生えると変わらんー。深く考えるなー。心配すなー」

「むむ。てゆうことは山本くん、私のことそんなに嫌いじゃないのかも?ころっと好きになっちゃうかも知れんのかも?」

「山本は諦めろー。マジでおまえのこと嫌いやって言うてたぞー」

「普通せんせーがそんなん暴露します?本人に」

「生徒が間違った道に進まんためやー。おまえのためやー」

「間違った道かー。せんせー、そんなんやからせんせー結婚できないんですよ。恋愛に間違いなんてないんですよ?人を好きになるってことに、正しいとか間違いとか、そんなんないんです」

「それっぽく綺麗事言うなー。あるぞー。恋愛ほど間違いだらけの科目はないぞー」

「反面教師ってやつっすか」

「人生のテストに出るからしっか覚えとけ」

なんでい。これだから教師ってのはダメなのだ。役に立たん。

私は教室に向かう。もうゆうやけこやけだ。さっさと帰って弟をいじめようかと考えながら教室に入ると、山本くんがいた。山本くんはちらりとこちらを見た。私は思わず一瞬睨んでしまったが、夕焼けを背負った山本くんの姿はやっぱりかっこよくてキレイで少し見とれた。

山本くんは黙ってランドセルをかつぎ教室の出入口に向かう。

「山本くん」と私は呼び止めた。

「何?」山本くんは振り返る。

「あの、バイバイ。また明日」

「んー」と言って山本くんは教室を出て行った。

んー。ですか。はい、そうですか。

私は一旦自分の席に座り、机に突っ伏して、山本くんの席をぼおっと見つめる。

ゆうやけこやけの教室はいつもと違ってセンチメンタルだ。

山本くん。

無理なんかなー。でもやっぱ好きだなー。

ぎゅ。ってなる。

んーーーー。

あー!!やべー!!ちゅーとかしたいぞー!うおー!なんか止まんねー!!






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