幸せの背景は不幸
私が悪いのか?
私がなんかしたのか?私はただただふつうに生きてただけだ。目立つことも嫌いだし明るく振る舞うのも嫌い。おとなしく、静かに、平和に暮らしたい。そういうのを周りの子たちは「もったいないよ」と言ったりするし、年上の人たちは「もっと子どもらしくしたらいいのに」と言って来たりするけど、正直笑える。
こういう無神経な人たちにはなりくはないな、と思う。
だけど私はそういうことも言わない。言って嫌われたくないとかではなくて、言ってあげない。反面教師にして、自分は人に気を遣えるようになれたらいいな、と思う。
けどそれでもむずかしい。
そう、人ってむずかしい。
「俺、木村のことすきなんやけど」
って告白された。当然、断った。その子のことは好きでもないし、とりあえず付き合ってどうこうとかもどうかと思うから。そしてほんの少し、体裁もある。学校という狭いコミュニティの中で、付き合うという付加は、目立ち過ぎる。私にとっては弊害になる。
「ごめんなさい。付き合うとかは、できなくて」
だから断った。
間違ってなかったと思う。相手の子を傷付けないようにしたつもりだった。でも、だめだった。生きている限り、誰一人傷付けない生き方なんてできないのかもしれない。
「木村が○○くんに告白されたらしいよ」
「××ちゃんって○○くんのこと好きやったのになー」
「××ちゃんかわいそー」
それ、私が悪いのか?
私がなんかしたのか?
どんな三段論法だ。三角関係か?どっちにしろ私を巻き込んでくれるな。えっと、マジで今回ばかりはお手上げかもしんない。別にいいけど、気にしなきゃいいんだろけど、心の奥のほうでは無視できない。
生きてるだけで敵意は降ってくる。
そういうもんかもしれないな。
「木村は悪くない」
って先輩は言ってくれた。
「え?やって、悪くないやろ?ふつうに。やからそんな顔せんときーやって。せっかくのかわいい顔が台無しやで」
先輩はのんきな顔で笑う。私のほうをあまり見ないで。先輩は私の情けない顔なんかよりも女子陸上部の練習を双眼鏡で覗き見ることに必死だ。
「じゃあ誰が悪いんですか?」私は訊く。「私やって私は悪くないと思う。じゃあ、私を好きになった○○くんが悪いの?○○くんを好きになった××くんが悪いの?それとも、そういうのをまとめて、私が悪いって言ってきた周りの子らが悪いの?」
「そんなもん、恋愛が悪いに決まってる」
先輩ははっきり言う。
「恋愛ってのはいちばんの悪やで。たいがい、人間関係引っかき回すのって、恋愛のことやん。とくに学校やったらそれで優劣ついたり。男やー、女やー、って、好きー、嫌いー、かっこいー、かわいー、きもいー、うざいー、って」
先輩は双眼鏡から目を離し、こちらを見る。
「そんなん、うざいやん?」
「…そんなん言っちゃっていいんですか」
「事実やからしゃーない。邪魔なもんからは距離置かなあかん。触らぬ神に祟りなしやで。こっち来んな!って。おまえなんとか遊んでやんねーよ!って。やから俺はこーやって、女の子を見てる。青春をスポーツに打ち込む姿。美しいね。まばゆいね。そこに恋愛感情はない。その姿勢が素晴らしく、情熱が美しい」
「後半はきもかったですけど、えっと、私どうすればいいんですかね?」
「ま、今はいいんちゃう?深く考えんで。みんなアホやからさー、相手しとったらキリないでな。今度誰かに告白されたら、俺と付き合ってるって言って断ったら?それやったらまだ納得いくんちゃう?」
「あ、それいいかもですね」
「え?えっと、嘘。やっぱごめん。やっぱなしで。まさか乗ってくると思わんかったから、あんま考えんと言っちゃった」
「え?今、私、ふられました?」